犬の椎間板ヘルニア(Intervertebral disc herniation)の1例例

亀戸動物総合病院 池田 雄太

 

はじめに

犬の椎間板ヘルニアは、ミニチュアダックスフントやビーグル、シーズーなどの軟骨異栄養犬種に多く発生する病気で、日本では圧倒的にダックスフントの胸腰椎での発生が多い。胸腰椎の椎間板が年齢とともに硬く変化し、突発的に脊髄へ飛び出すことで背中の激しい痛みや、後肢のマヒを起こす。治療法は重症度によって内科療法と外科療法に分けられる。

 

症例

犬、5歳齢、パピヨン、雄、体重4.5㎏ 体温38.0℃
急に両後肢が立たなくなり、背中を痛がるという主訴で来院。(下部に動画あり

 

各種検査

神経学的検査:前肢正常 両後肢の姿勢反応消失 ナックリングあり 飛び直り反応⇒消失
       踏み直り反応⇒消失 脳神経検査⇒正常 膝蓋腱反射⇒亢進
       深部痛覚⇒あり
その他諸検査:異常なし

 

診断

胸腰椎椎間板ヘルニア GradeⅢ(歩行不能 不全マヒ)

 

治療と経過

椎間板ヘルニアの確定診断および他の脊髄脊椎疾患との鑑別のために、翌日MRI検査を実施。MRIでは第2-3腰椎(L2-3)間の右側からの脊髄圧迫が確認され、椎間板ヘルニアと確定診断した。
同日、右側からの片側椎弓切除術を行った。(写真あり)
術後の経過はよく、3日目には歩行可能となり、5日目に退院とした。現在手術から3年経過するが、再発もなく良好である。

治療

 

考察

椎間板ヘルニアによる脊髄へのダメージは時間とともに進行し、また他の組織と違って神経は再生しないため、早急な対応が必要である。発症してから時間が経過するほど治癒率は低くなってしまうし、また回復までに長期化してしまう。本症例のように重症度(Grade)によって適切な治療法を選択し、基本的にはGradeⅢ以上の症例においては早急な外科手術が必要であり、非常によく改善する。当院では手術に超音波手術器を使用しており、非常に低侵襲な手術が可能である。
※最も重症であるGradeⅤ(深部痛覚なし)の症例中の約10%において「進行性脊髄軟化症」が発生する。これは事前の診断もできず、また発症すると治療法がない病気で、後肢だけでなく前肢および全身にマヒが進行し、発症から約7日後に呼吸麻痺を起して死亡してしまう病気である。


手術前の歩行動画


手術3日後の歩行動画