猫の肺癌の1例

亀戸動物総合病院 池田 雄太

 

はじめに

動物ではヒトと違い肺癌の発生率は低く、全腫瘍の中の1%未満と言われている。症状は発咳、頻呼吸など呼吸器症状が認められるが、無症状で偶発的に発見されることも多い。また猫では特に稀な疾患でありその予後は不明である。今回健康診断にて偶発的に肺腫瘍が認められ、外科切除にて良好に経過している猫の1例を報告する。

 

症例

アメリカンショートヘアー 去勢済みオス 10歳齢 体重4.3㎏
健康診断のため近医を受診、レントゲン検査にて肺腫瘤が認められたため精査・治療を目的に当院を紹介受診。
既往歴:肥大型心筋症

 

診断

一般身体検査:心雑音あり その他異常なし
胸部レントゲン検査:左肺の後葉領域に不透過陰影あり 図1,2
後日外科適応かどうかの判断およびステージングを目的にCT撮影を実施。左肺後葉に2.8×1.8×3.0cmの腫瘤病変が確認された。
その他の肺葉に腫瘤は認められなかった。図3,4

 

術前診断 肺腫瘍 T1N0M0

  • 肺腫瘍
    図1
  • 肺腫瘍
    図2
  • 肺腫瘍
    図3
  • 肺腫瘍
    図4

 

治療

第17病日、手術を実施した。手術は左第5肋間よりアプローチし肺門部から左肺後葉の肺葉切除を行った。術後の経過は良好で術後翌日には退院となった。病理結果は癌肉腫であった。図5,6

  • 切断面
    図5
  • 左側が頭、右側が尾
    図6

考察

肺腫瘍に限らず、肺の疾患は病気が進行しないと症状が現れないことが多く、発見時にはすでに手遅れの状態で見つかることも多い。今回健康診断にて偶発的に肺腫瘍が見つかりステージも初期の段階で発見できたことから、レントゲンや血液検査を含めた定期検診が重要であると思われた。

肺腫瘍は通常のレントゲンでは詳細な部位の把握が困難であり、評価にはCT撮影が必要である。また手術方法として肋間を大きく切開する方法が現在一般的であるが、今後は胸腔鏡を使用した、鏡視下肺葉切除も検討していく方針である。