肝細胞癌の犬の1例

亀戸動物総合病院 佐野 有起

 

要約

腹腔内の肝細胞癌を外科的に摘出した症例の概要を報告する。

 

症例

犬 スコティッシュテリア 避妊雌 10歳 体重10.3kg

 

凛告

近医にて血液検査にて肝酵素の上昇を指摘され、セカンドオピニオンを求め当院を受診された。

 

身体検査

触診にて上腹部に強大な腫瘤性病変が確認された。

 

血液検査

肝臓パネルの上昇が認められた。その他の生化学検査および全血検査異常は認められなかった。

 

画像診断(レントゲン検査および超音波検査、CT検査)

肝臓に腫瘤性病変を2か所認める。肺転移像を疑う所見は認められなかった。(図1)
肝臓に腫瘤性病変を2か所

以上のことより、診断および治療を目的とした開腹手術を実施した。

 

治療

血管シーラーPKシステムを使用して、方形葉および外側左葉の肝臓腫瘤切除術を実施した。(図2、3)

  • 腫瘍随伴症候群
  • 腫瘍随伴症候群

 

病理組織学検査

いずれも肝細胞癌(高分化型)

 

経過

術後3カ月目の定期検診で再発を疑う肝臓腫瘤が認められ、徐々に増大傾向だが、現在術後1年経過し、他臓器への圧迫等に伴う臨床症状は認められていない。

 

考察

犬の肝臓原発腫瘍の悪性比率は極めて高く、悪性腫瘍の約8割は肝細胞癌と言われている。
また、腫瘤発見時には既に強大になっていることが多い。これは肝臓には予備能力が大きく、病態がかなり進行するまで臨床症状が認められにくいことが要因となっていると思われる。腫瘤増大に伴う腹腔内臓器の圧迫や、さらに、腫瘤表面は極めて脆弱で、内部に壊死や血腫などの出血病変を有することが多いため、診断および治療を兼ねた開腹手術を行うことが多い。
術前のCT検査は、腫瘤病変の状態、転移の有無等の描出に優れ、開腹手術適応か否か、摘出可能か否かを検討する上で非常に有用な検査と思われる。
犬の肝細胞癌の予後については、腫瘤の大きさよりも数に比例し、腫瘍自体が限局的な場合は完全な外科的切除が可能となり、予後良好とされている。
前述のように臨床症状が認められる頃には腫瘍が切除困難なほど増大していることも多い。そのため、できる限り早期に発見するためにも、特に老齢犬における検診として肝酵素のモニターを含めた血液検査やレントゲン検査および超音波検査を定期的に実施することが重要であると思われる。