交通事故による下腿骨骨折(脛骨・腓骨)の犬の1例
亀戸動物総合病院 池田 雄太
要約
交通事故により、下腿骨骨折(脛骨・腓骨)及び足根関節内骨折をおこした犬に対し、プレートによる固定と、足根関節固定のための髄内ピン挿入を行った。
症例
犬 ミニチュアダックスフンド 雄 9歳
主訴:自動車と接触した後から、右後肢の跛行(挙上してしまう)と腫れが認められる。
触診
右後肢を触ると激しい痛みがあり、下腿部が異常な角度に屈曲してしまう。 また右足根関節が正常よりも過伸展する。
レントゲン検査
図1:後肢のVD像(仰向け) 矢印の部分が骨折している
図2:後肢のラテラル像(横向き)矢印の部分が骨折している
図3:正常な左後肢
診断
右脛骨・腓骨の骨折 右足根関節内骨折
治療
外科手術により、骨折を整復後、プレート(LCP:Locking Compression Plate)とスクリューにて固定をおこなった。足根関節内には髄内ピンを挿入した。
図4:術中写真 骨折端を確認
図5:術中写真 骨折を整復 プレートにて固定
図6・7:術後のレントゲン写真
経過
術後入院2日目より、患肢(手術した側の肢)を接地し、ケージ内で歩行可能であった。 入院5日目、疼痛、腫脹もなく良好なため退院とした。
考察
今回の症例のように大きな変位のある骨折の場合、適切な処置をせず時間が経過すると「癒合不全」や「変形癒合」を起こしてしまい、正常な歩行ができなくなる可能性がある。そのため早期の外科手術により、骨折を整復し、適切な固定法を実施する必要がある。 今回ロッキングプレートとスクリューを用いて骨折片を固定することで、術後早期の歩行と、骨折による疼痛の軽減が得られた。 LCP(Locking Compression Plate)はプレートとスクリュー自体をロッキングさせて固定するプレートシステムで、プレートのホールとスクリューヘッドに溝が形成されており、これによってプレートとスクリューがロックされる。従来のDCP(Dynamic Compression Plate)に比べて、角度安定性が高いためDCPほどプレートを骨に圧迫する必要がなく、そのため骨膜への血流を阻害することなく早期の骨癒合が期待できる。
またDCPではプレートを骨の形状にあわせてベンディングする必要があるが、LCPの場合、骨に密着させ圧迫する必要がないため、ベンディングが必要ではなく、ベンディングの不備によるプレートの摩耗、破損が無いことも優れている点といえる。
このように骨折において、LCPを用いた早期の外科手術は有用であると考えられる。