熱中症によりDICを併発した犬の1例

亀戸動物総合病院 池田 雄太

 

はじめに

熱中症は気温、湿度の高くなる夏場、特に車内や冷房の効いていない室内などでおこりやすい。体温が上昇しやすい大型犬や短頭種(パグ、ペキニーズなど)で発症しやすく、重症化すると急性腎不全や痙攣、血液凝固障害など多臓器不全を併発し死に至る非常に危険な疾病である。

 

症例

犬、2歳齢、ゴールデンレトリーバー、雌、体重27.0㎏ 来院時体温39.0℃
2013年7月猛暑日 日中冷房の壊れている車でドライブをしており、帰宅後元気なく、起立困難、血尿を呈し来院。

 

各種検査

身体検査  :下腹部皮膚に複数個所の紫斑あり(下図参照)
血液検査  :血小板減少(15000/μl) FDP値上昇(10μg) PT延長(9.5秒) APTT延長(38.7秒) ALT,AST,CK,LDHの上昇
その他諸検査:異常なし

 

診断

熱中症によるDICの併発 横紋筋融解によるミオグロビン尿症

図:皮下出血(紫斑)を呈した下腹部
図:皮下出血(紫斑)を呈した下腹部

 

治療と経過

熱中症とDICに対する救急管理を開始した。ICU内の温度を18度に設定し、冷却、酸素化を行い、静脈点滴を開始、広域抗生物質の投与およびDIC治療として低分子ヘパリンの投与を行った。 入院3日目 血液凝固系の数値は正常化し、状態も安定、歩行良好、尿も正常のため退院とした。

 

考察

2013年の夏もそうであったが猛暑日が続いている場合熱中症で来院する患者が増える傾向にあると思われる。熱中症は年齢に関係なく発症する疾病であり若く健康な動物であっても、対応が遅れれば死に至る危険性が大きい。治療においては救急としての対応が必要であり、時間が遅れるとともに救命率は低下してしまうため、早期発見し酸素吸入や静脈点滴などの積極的な入院管理が有用である。最近では動物の熱中症に対する情報も広まってきてはいると思うが、やはり一番の治療法は予防であり、夏場の動物がいる環境の温度・湿度管理、車内に放置しないなどのケアーを行っていくことが最も重要である。