肝リピドーシスの猫の1例

亀戸動物総合病院 池田 雄太

 

はじめに

肝リピドーシスは猫に特徴的な肝臓疾患で、様々な原因によって猫が食欲廃絶、絶食状態となると体内の脂質が肝臓へ沈着することで発症する。脂肪変性した肝臓は機能が低下し、徐々に肝不全の状態となり、無治療では致死的な状態となる疾患である。肝リピドーシスは、肥満体の猫が、3~7日間絶食状態となると発症しやすいと言われている。

 

症例

猫、茶トラ、15歳齢、去勢オス、体重5.8㎏(元々8.8㎏)
3日間食欲不振、元気消失を主訴に来院

 

各種検査

身体検査   :皮膚や口腔粘膜の黄疸あり
血液検査   :軽度貧血、肝酵素の上昇(ALT152,ALKP167,AST83)黄疸(TBIL2.6),Fib値低下(50mg/dl未満)
レントゲン検査:肝腫大
エコー検査  :肝腫大とエコー原性増加
エコーガイド下肝臓細胞診:肝細胞の脂肪変性(下図参照)

図:白い空胞を持った肝細胞(脂肪変性)
図:白い空胞を持った肝細胞(脂肪変性)

 

診断

肝リピドーシス

 

治療と経過

診断後、入院治療を開始。経鼻カテーテルを設置し高蛋白流動食(クリニケア)を経鼻カテーテルより持続投与。投与により流涎が認められたため制吐剤、制酸剤を投与。入院5日目、血液検査にて血液凝固系の指標であるFib値が正常化したため胃瘻チューブ(PEG)を内視鏡で設置。(下図参照)PEG設置翌日より高蛋白栄養食(退院サポート)をPEGより投与開始。投与量は漸増していき、PEG設置後4日目に1日必要カロリー量の90%を投与可能となり、状態も安定したため退院とした。その後自宅でのPEGチューブよりの給餌を行い、PEG設置後約1ヵ月に自力採食が可能となり、血液検査数値も全て正常化したためPEGチューブを抜去した。

図:PEGチューブ(オールインワンタイプ) 図:PEGチューブ(オールインワンタイプ)
図:PEGチューブ(オールインワンタイプ)

 

考察

猫の肝リピドーシスの直接の原因は、食欲不振による栄養不良である。食欲不振となる要因は様々であり、例えば引越しや家庭環境の変化などのストレスや、胃腸炎、腎不全、感染症など多岐に渡る。特に肥満体の猫では脂肪量が多いために肝リピドーシスになりやすいため注意が必要である。

肝リピドーシスの治療は「必要なたんぱく質量を継続的に給餌しつづけること」であり、短期間で終わる治療ではなく飼い主様の自宅でのケアーを前提とした長期的管理が必要となる。元々食欲不振が原因となる疾患であるため、猫が自ら食事を食べることは不可能であり、そのため経鼻カテーテルや胃瘻チューブなどの設置を行い、チューブからの強制的給餌が必要となる。チューブを設置したからといって治療が終わりではなく、その後たんぱく必要量を継続的に給餌し、やがて自ら食事をとるようになるまでには約1ヵ月と長期の治療が必要で、治療の中心は病院ではなく家庭である。猫の肝リピドーシスは無治療では非常に予後の厳しい疾患であり、また進行した状態であると例え治療したとしても回復せず死亡してしまうケースも多い。しかし本症例のように早期に積極的に治療介入をすることで完治できる疾患でもあるため、猫が食欲不振になった場合は早急に動物病院を受診することが、最も大事なことである。