SCCEDs(自発性慢性角膜上皮欠損)に対して点眼麻酔下でASP、GKを複数回行った犬の1例
亀戸動物総合病院 眼科担当 本庄 真奈吾
はじめに
SCCEDs(spntaneous chronic corneal epithelial defect)とは、角膜上皮細胞基底膜と角膜実質表層との接着不全によって起こる自発性慢性角膜上皮欠損であり、無痛性潰瘍、再発性上皮びらん、ボクサー潰瘍、慢性上皮欠損と同義である。
内科療法では完治が難しく、適切な治療が行われないと長期に渡って症状が継続する。
今回、点眼麻酔下で角膜表層穿刺(ASP:anterior stromal puncture),角膜格子状切開(GK:grid keratotomy)を複数回行った結果、完治した症例について報告する。
症例
ゴールデンレトリバー 避妊メス 11歳10か月齢 体重35.4㎏
2年前に眼科専門医のいる病院にて左眼を再発性上皮びらんと診断後、全身麻酔下でASP治療を受け完治している。
今回、疼痛による羞明と流涙が右眼に現れたため来院された。
当院の一般診療において、表層性角膜潰瘍と診断し、角膜保護点眼、抗菌点眼を処方したが、1週間経っても治癒しなかったため眼科にて再診となった。
診断
Menace 、Dazzle、PLR、IOPは正常であり、フルオレセイン染色は角膜中心部からほぼ全域にわたって陽性であった。
過去に左眼にSCCEDsが発症していること、通常の角膜潰瘍治療で反応がなく、スリットランプにて実質の欠損を伴わないことを踏まえて、点眼麻酔下でデブライドメント行った。それにより、容易に角膜上皮が剥離したため SCCEDs と診断した。
治療
前回のように全身麻酔をかけて行うか、点眼麻酔下で1週間に1回の通院を目安に複数回の処置を行うか、オーナーと相談の結果、通院処置を行うことに決定した。
まず、角膜上皮のデブライドメントを行った後、22G針を用いてASP、GKを組み合わせて行った。疼痛が激しいので治療用コンタクトレンズ(メニワンBLV-D1)を装着し、カラー着用とした。また、抗菌薬点眼、ヒアレインミニ0.3%、自己血清点眼、内服にてNSAIDsを処方した。1週間から10日おきに計4回の処置を行い完治した。
考察
SCCEDsは一見すると単純な表層性角膜潰瘍であるが、治療効果が一進一退であり、獣医師とオーナーの両方に精神的ストレスを感じさせる疾患の一つである。
通常の内科療法を1週間以上行っても反応が認められなければ、全ての治癒遅延の基礎原因を考える必要がある。また、全身麻酔下での処置は検査やコスト、リスクなどの面でハードルが高くなる上、再手術の可能性もあるため、今回のように複数回に渡り点眼麻酔下で通院治療を行うことも有用であると思われた。