胃内異物(ねこじゃらしのおもちゃ)の猫の1例
亀戸動物総合病院 石川朗
要約
凛告およびレントゲン検査から異物を誤飲したと考えられた猫に内視鏡検査をおこない、内視鏡鉗子を使用して摘出した。
症例
猫 シンガプーラ 去勢雄 4歳
凛告:ねこじゃらしのおもちゃの先の部分を飲んでしまった。
レントゲン検査
前日にかかりつけ病院でおこなった造影検査の造影剤が胃内に残存していた(図1)。
仮診断
稟告の異物は胃内にある可能性が高いと考えられた。
内視鏡検査
胃内に稟告のものと思われる異物が確認された(図2)。
その他の異物はみとめられなかった。
内視鏡鉗子を使用して摘出をおこなった(図3)。
経過
麻酔から覚醒後、当日の午後に退院とした。
考察
内視鏡による上部消化管の異物の診断・治療には以下のような利点があげられると思われる。
① 確定的な診断ができる
嘔吐は頻繁に遭遇する主訴であり、その際に異物は必ず鑑別診断リストに入る。「異物を飲んだかもしれない」とはっきりしない場合や、レントゲンで異物らしきものを確認できるが何なのか分からない場合、念のため造影検査をしてみたがわずかに胃内に造影剤が残るなどの解釈が難しい場合、おそらく胃内に異物があると思われるが試験開腹の同意が得られない場合などには、苦慮することも少なくない。内視鏡は消化管内を直接的に観察することができ、異物の有無や状態を正確に把握することができるため、これらの問題をほぼ解消することができると思われる。
② 多くの異物を安全に摘出することができる
内視鏡で確定診断した後に、ほとんどの異物はそのまま摘出が可能である。例外としては、大型犬が飲み込んだ大きなボールなどがある。また、催吐処置が危険と思われる竹串や針なども高い安全性で摘出できる。さらに、手術の適用か否かを速やかに判断することができ、説得力を持って飼主へ説明できる。
③ 動物と飼主の負担が少ない
内視鏡で摘出ができれば、動物に対する外科的侵襲が少なくすむだけでなく、入院期間を短縮することができ、日帰り処置が可能な場合もある。結果として、飼主の負担が少なくなることも利点と考えられる。
内視鏡の欠点としては、全身麻酔があげられる。しかし実際のところ、異物を誤飲する動物は若齢が多いため、全身麻酔のリスクが強調されることは少ないと思われる。 また、十二指腸より下部の小腸を観察できないという欠点がある。これに対しては、可能であれば内視鏡検査の前に消化管造影検査をおこなって小腸の通過障害の有無を評価している。また、麻酔導入して内視鏡を挿入する前にルーチンに腹部触診をおこなっている。全身麻酔下であれば腹筋の発達した犬や肥満の猫の小腸もほぼすべて触診することができ、古典的であるが、かなりの確率で小腸内異物が診断できている。