異物による不完全な腸閉塞の診断にCTが有用だった犬の1例
亀戸動物総合病院 石川 朗
要約
食欲不振、嘔吐を主訴に来院した。各種検査により腸閉塞が疑われたが、確定的でなかった。そこで追加検査としてCT検査をおこない、異物による腸閉塞と診断した。飼主にインフォームドコンセントをおこない、腸切除術を実施した。予後は良好であった。
はじめに
一次診療において、嘔吐の一般的な原因の一つに消化管内の異物がある。しかし、異物の種類や部位により、その病態や重症度は多様である。今回、各種の院内の検査では確定診断に至らなかったが、腹部CT検査にて異物による腸閉塞を診断した症例について報告する。
症例
犬 パピヨン 年齢不明(中高齢) 去勢雄 体重7.16kg
前日からの食欲不振、嘔吐を主訴に当院を受診された。
臨床検査所見・診断
血液検査では、白血球数の増加(17900/μl)、CRPの上昇(12mg/dl)が認められた。レントゲン検査では、右上腹部にX線不透過性の直径5mmの所見が認められた。腹部エコー検査では、右上腹部の腸と思われる部位に高エコー源性の領域が認められた。ガストログラフィンによる消化管造影検査では、一部に腸の拡張像が認められたが、明らかな通過の遅延などはなく、全ての造影剤は結腸へと達した。
これらの所見から、異物による腸閉塞がもっとも疑われたが、確信は得られなかった。そこで、キャミックひがし東京にCT検査を依頼した。
腹部CT検査では、小腸内に異物が認められ、閉塞部位の腸壁の肥厚と腸内腔の拡張が認められた(図1)。腸壁の一部にX線低吸収領域が認められ、潰瘍または穿孔が疑われた。その領域の腹腔内脂肪に不正な陰影が認められ、炎症や癒着などが疑われた。また幽門部の漿膜面に厚さ1cmの腫瘤が認められた。
以上の所見から、異物による不完全な腸閉塞であると総合的に診断した。
■CT検査所見(図1)
1、小腸内(おそらく空腸)に異物を確認
2、同領域の腸壁の肥厚および腸内口腔の拡張
治療・経過
診断にもとづいて、飼主にインフォームドコンセントをおこない、手術の同意を得た。手術時の肉眼所見はCT検査で得られた所見と相違はなかった(図2,3)。閉塞部位の腸切除術をおこなった。また、胃の腫瘤は組織の一部を採取して病理組織検査に提出した。術後の経過は良好で、7日後に退院とした。なお、胃の腫瘤は胃腸間質細胞腫瘍(GIST)と診断された。
■手術所見(図2)
■手術所見(図3)
考察
消化管内の異物は、診断や治療が比較的に簡単な場合も多いが、その一方で苦慮することも少なくないと思われる。今回、各種の院内の検査では確定診断に至らなかったが、CT検査をおこなったところ異物による腸閉塞を診断することができた。とくに、飼主に手術の必要性について明確に説明できたことの意味は大きいと思われた。また、腹腔内の状態を正確に把握することで、必要な術式を術前に予測できたため、手術をスムーズにおこなうことができた。以上より、腸閉塞の診断および治療計画において、CT検査は考慮すべき検査のひとつになると思われた。
また、偶然であるがCT検査で胃の腫瘤性病変が発見されたため、生検をおこなったところ胃腸間質細胞腫瘍の結果を得た。腹腔内の悪性腫瘍をかなり早期に診断できたと思われた。これに対しては、腸閉塞の手術から41日後に、腫瘍の摘出手術を実施した。CT検査の精度の高さを示す結果となったと思われた。
(東京イースト獣医協会 症例検討会で発表)