腹腔鏡検査により診断した慢性肝炎および肝リピドーシスの猫の1例
○石川 朗,水本貴士,堀 小郁,遠藤美紀,町田健吾,
池田雄太,宇賀田雅人,鑓田祐佳里,住田篤則,山田武喜
亀戸動物総合病院
はじめに
黄疸は猫でしばしば遭遇する症状である。溶血(肝前性)が否定された場合、肝胆道系に何らかの異常(肝性・肝後性)が起きていると判断される。特に肝実質の異常が疑われる場合には、確定診断のために生検が検討される。肝生検はいくつかの方法があるが、そのひとつに腹腔鏡下鉗子生検がある。今回、猫の慢性肝炎および肝リピドーシスの診断に腹腔鏡検査が有用であった症例を経験したので報告する。
症例
症例は猫(雑種)、雌(避妊)、6歳齢、体重3.64kg、対症療法で改善しない黄疸の精査のため、かかりつけ病院の紹介にて当院を受診した。初診時一般身体検査では、活動性の低下、削痩(BCS 2/5)が認められ、皮膚はやや黄色であった。血液検査では総ビリルビンの上昇(TBIL 4.8mg/dl)、肝酵素の上昇(ALT 209U/l, AST 305U/l, ALKP 597U/l, GGT 3U/l )、アルブミンの低下(ALB 1.8g/dl)、貧血(PCV 24.2%)、白血球数の増加(WBC 25350/μl)が認められた。X線検査では腹部全体のX線不透過性の増加が認められた。腹部超音波検査にて総胆管の拡張および蛇行、肝臓辺縁の不整、少量の腹水が認められた。肝臓のFNAによる細胞診では、肝細胞の細胞質に多数の空胞が認められた。以上の所見より肝胆道系疾患が疑われたが、確定診断には至らなかった。飼主がさらに詳細な検査を希望したため、腹腔鏡検査をおこなった。腹腔鏡による肝胆道系の観察では、胆嚢の大きさや色調に異常は認めなかった。肝臓は乳白色を呈しており、辺縁は不整で、表面全体に小隆起が認められた。総胆管は拡張し蛇行していたが、色調に異常は認められなかった。これらの所見より、肝外胆管閉塞の可能性は低く、肝実質性疾患が強く疑われると判断した。そこで、肝生検、胆嚢穿刺による胆汁の採取、胃瘻チューブの設置をおこなった。胆汁の細菌培養検査は陰性であった。また、肝臓生検組織による病理組織検査では肝細胞の脂肪変性とグリソン鞘の繊維組織の増生およびリンパ球の浸潤が認められた。
診断
以上の所見より、慢性肝炎および肝リピドーシスと診断した。
治療
輸血を含む集中治療をおこなったが、第4病日に肝不全により斃死した。
考察
猫が黄疸を呈し、肝胆道系に異常が疑われる場合、疾患によっては特異的な治療が必要になるため、その原因を鑑別することは非常に重要である。特に猫は先天的な胆管奇形が多いとされ、超音波検査で肝外胆管閉塞を診断する際に苦慮することが多いと思われる。この点において腹腔鏡検査は、診断的開腹術に比べて低侵襲に、肝胆道系の観察、肝生検、胆汁の採取、胃チューブの設置などを実施できるため有用であると思われる。また、肝外胆管閉塞の所見が認められた場合には、そのまま手術に移行することも可能であり、飼主に開腹手術の必要性をより明確に示すことができると思われる。今後は、腹腔鏡検査で得られた結果を予後の改善につなげていくためにも、検査の適用のタイミングや周術期の管理法について更なる検討が必要であると思われた。