皮膚肥満細胞腫ステージⅡに対し外科切除と術後化学療法を実施した犬の1例
亀戸動物総合病院 腫瘍科 池田 雄太
はじめに
犬の皮膚に発生する腫瘍の中で肥満細胞腫は最も多い腫瘍の一つである。肥満細胞はもともとアレルギー反応や免疫応答の際に重要な役割をする細胞で、これが腫瘍化したものが肥満細胞腫となる。その性質として腫瘍周囲の発赤・痒み・浮腫また嘔吐や下痢などの症状を呈することがあり、挙動の幅が広い腫瘍である。さらに悪性度が低いものから高いものまで様々なタイプがあり、悪性度に応じた対処が必要である。今回リンパ節転移が認められたステージⅡの皮膚肥満細胞腫に対し、外科切除と術後の抗がん剤療法を実施し、良好に経過している症例を得たので報告する。
症例
アメリカンコッカースパニエル オス 5歳齢
左後肢の大腿部尾側に半年前から皮膚腫瘤があり、ここ1か月で増大してきたため精査を目的に受診
既往歴:皮膚膿皮症
診断
体重14.4kg 体温40.1℃
一般身体検査:腫瘤直径2.1×1.8㎝(図1)左膝窩リンパ節1.5×1.5㎝に増大(図1)
その他異常所見なし
レントゲン検査・エコー検査:異常所見なし
血液検査 :異常所見なし
FNA検査 :皮膚腫瘤(図2)細胞質に豊富な顆粒を含む独立円形細胞が採取された。核の異型性は乏しく、核分裂像も認められない。
膝窩リンパ節(図3)リンパ球の中に、図2で認められる細胞が認められ、一部で集塊を形成している。
診断 肥満細胞腫ステージⅡ
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図1 マーカーでしるしをつけてある -
図2 皮膚腫瘤 -
図3 膝窩リンパ節
治療
第8病日 手術を実施した。肥満細胞腫と膝窩リンパ節は近接していたため、一括切除とした。肥満細胞腫の水平サージカルマージンは2㎝とし、底部マージンは筋膜1枚とした(図3、4、5)
病理診断 肥満細胞腫 マージンクリーン
Patnaik分類 グレードⅠ-Ⅱ
Kiupel分類 低グレード
リンパ節 初期の転移
図3 切皮ラインをマーキングしている
図4 切除後
図5
術後経過は良好であり、第22病日に抜糸を行った。リンパ節転移が認められたため、術後の補助療法として化学療法を提案し、実施した。化学療法はビンブラスチン+プレドニゾロン療法を選択し、合計6回の投与を行った。現在術後2年以上を経過しているが、肥満細胞腫の再発や転移は認められず、良好に経過している。
考察
犬の皮膚肥満細胞腫においてリンパ節転移が認められた場合、リンパ節の切除または放射線療法などにより転移リンパ節の治療を実施した方が、実施しない場合より予後がよいと報告されている。また肥満細胞腫においてグレードⅢ、グレードⅡでマージンダーティーの場合、リンパ節転移が認められた場合は、術後の補助療法として抗がん剤による全身療法が推奨されている。
本症例では低グレードであるが、膝窩リンパ節に転移が確認されたため、補助療法としてビンブラスチンとプレドニゾロン投与を実施した。以上のことから犬の皮膚肥満細胞腫ではリンパ節転移や内臓転移を含めたステージングを正確に行い、さらに腫瘍の悪性度(グレード)評価に基づいて治療プランを組み立てる必要があると思われる。