胆嚢粘液嚢腫の犬の1例

亀戸動物総合病院 池田 雄太

 

はじめに

犬の胆嚢粘液嚢腫は肝胆道系疾患の中で比較的多いものである。初期は胆汁が泥状になる胆泥症が認められ、進行すると胆汁がゼリー状となり粘液嚢腫と呼ばれる。病態のはっきりとした原因は明らかになっていないが、高脂血症や好発犬種などのリスクファクターが分かっている。健康診断などで偶発的に発見されることが多く、無症状の場合が非常に多い。しかし粘液物質の重度の貯留に伴う胆道閉塞、胆嚢炎、胆嚢破裂などを発症することも多く、その場合の致死率は高く外科的に胆嚢摘出を行う必要がある。

 

症例

アメリカンコッカースパニエル、8歳齢、オス、体重10㎏ 体温38.8℃
2日前から嘔吐、腹部痛を主訴に受診

 

各種検査

身体検査   :腹部の圧痛 可視粘膜の黄疸
血液検査   :肝臓パネルの上昇、ビリルビン値3.6mg/dl 白血球数上昇、CRP値上昇
        PT・APTTの軽度延長
レントゲン検査:消化管ガスの貯留
エコー検査  :胆嚢内に高エコー物確認、繊維状構造あり、胆嚢周囲の高エコー像(下図参照)

  • エコー図:腫大した胆嚢と不正な内容物
    エコー図:腫大した胆嚢と不正な内容物
  • 胆嚢周囲の高エコー像
    胆嚢周囲の高エコー像

 

診断

胆嚢粘液嚢腫による胆嚢炎

 

治療と経過

第1病日 胆嚢炎からPre-DICを併発していると判断したため、緊急手術を実施した。
胆嚢は大きく腫大し一部大網が癒着している部分もあった。(図1)胆嚢を剥離し内容物を除去後、(図2)カテーテルにて総胆管の開通性を確認したところ、十二指腸への生理食塩水の開通が確認できたため胆嚢を摘出し(図3)、十分に腹腔洗浄後閉腹した。経過は良好で徐々にビリルビン値は改善し、第6病日退院とした。胆汁の細菌培養検査は陰性であった。

  • 図1:腫大した胆嚢(矢印)
    図1:腫大した胆嚢(矢印)
  • 図2:胆嚢内容物(矢印)
    図2:胆嚢内容物(矢印)
  • 図3:胆嚢摘出後の胆嚢窩(矢印)
    図3:胆嚢摘出後の胆嚢窩(矢印)

 

考察

胆嚢粘液嚢腫は外科的介入を「いつ行うか」が最も判断の難しい部分である。偶発的に発見され無症状の場合は内科療法を開始し経過観察とすることが多いが、典型的な症状を認める場合でも、入院点滴治療に反応し、良化する場合も多く判断が非常に難しい。しかし胆嚢破裂、胆嚢炎からの腹膜炎併発、内科療法に反応しない場合などは必ず外科手術が必要になる。エコーなどによる画像診断にて明らか胆嚢破裂などの所見が認められる場合は、緊急手術が必要であるが、胆汁性腹膜炎で細菌培養が陽性の場合の周術期死亡率は10-20%と極めて高い。よって無症状でも重度の胆嚢の変性が認められ、血液検査にて異常値がある場合には早期の外科摘出も検討すべきである。