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大型の肝細胞癌に対し肝葉切除を実施した犬の1例

亀戸動物総合病院 腫瘍科 池田 雄太

はじめに

 犬の肝臓腫瘍には様々なタイプが発生するが、その多くは肝細胞癌であり約70%を占める。肝細胞癌は進行が比較的緩やかであり、無症状のことも多いため健康診断などで偶発的に発見されることが多い。進行すると肝臓全体に浸潤する場合や、肝機能低下、嘔吐食欲不振などの症状を起こす。今回肝臓外側左葉に発生した大型の肝細胞癌に対し、肝門部からの完全外側左葉切除にて腫瘍切除を行い良好に経過している症例を得たので報告する。

症例

雑種 オス 13歳齢
他院にて肝臓腫瘤が発見され、セカンドオピニオンを求め当院受診
既往歴:フィラリア症(現在は陰性)

診断

体重15.06kg 体温38.5℃
一般状態   :元気あり、食欲正常の8割、排便排尿正常
一般身体検査 :上腹部に腫瘤が触知できる その他異常所見なし
レントゲン検査:上腹部中央部に腫瘤が確認できる
エコー検査  :肝臓左肝区域に直径10×10㎝の腫瘤が認められる 大型のため孤立性か多発性か評価困難
血液検査   :肝臓パネルの上昇 CBC正常
FNA検査  :異型性を伴う肝細胞が多数確認された
手術適応の判断のため、後日CT撮影を実施した。肝臓外側左葉に12.3×11.3×8.4㎝の腫瘤が認められ、その他の肝葉には明らかな転移病巣は認められず、リンパ節の腫大も認められなかった。また後大静脈、門脈本幹とは距離があった。(図1)

診断 肝細胞癌もしくは肝細胞腺腫(T1N0M0)
図1 肝臓に巨大な腫瘤が認められる(緑点線)

治療

 第10病日 手術を実施した。アプローチは腹部正中切開に両側の傍肋骨切開を併用し、十分な術野を確保した。(図2)
左の三角間膜を切除し肝臓外側左葉を横隔膜から遊離させ、肝門部にて門脈、左肝静脈を結紮離断し、(図3)
外側左葉を完全切除した。(図4)
摘出した腫瘤は巨大であり、病理診断にてマージンは完全であった。(図5)
縫合後の術創(図6)

病理診断 肝細胞癌 マージン完全
図2 中央に見える塊が腫瘤(左が頭側、右が尾側) 図3 肝門部で血管を結紮している
図2 中央に見える塊が腫瘤(左が頭側、右が尾側) 図3 肝門部で血管を結紮している
図4 切除後の断面 胃や腸が目視できる 図5 左に切断面が見えている
図4 切除後の断面 胃や腸が目視できる 図5 左に切断面が見えている
図6(左側が頭、右側が尾)
図6(左側が頭、右側が尾)

術後経過は良好であり、第30病日に抜糸を行った。術前に高値であった血液肝パネルは徐々に改善した。現在術後6ヵ月が経過するが、再発や転移は認められず、良好に経過している。

考察

 犬の肝細胞癌は、ある報告では無治療の場合生存期間は約1年、手術で完全切除した場合は4年以上と報告されている。また腫瘍のサイズよりも個数が重要であり、巨大であっても孤立性で完全切除できれば予後が良好である。本症例のように腫瘍が巨大な場合はその発生部位、大血管との位置関係を把握するためにCT撮影が必須である。肝臓手術の最大の合併症は大出血であり、大血管と近接する腫瘍を摘出する場合などは事前に輸血の準備も必要である。また巨大な腫瘍や横隔面に近い部位などに発生した深い場所の腫瘍摘出の場合は、術野が狭いと安全に摘出困難であるため、傍肋骨切開や胸骨切開、横隔膜切開などを併用し十分な術野を確保することが必要であり、三角間膜などの間膜処理も必要となる。以上のように肝細胞癌の治療は外科治療が第一選択であるが、肝臓・血管・間膜の解剖を把握することが大切であり、入念な準備、手術計画を立てることが大切であると思われる。

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