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外科手術を実施した特発性乳び胸の猫の1例

亀戸動物総合病院 幸田 菜々香

はじめに

 乳び胸(chylothorax)は胸膜腔内に乳び(chyle)が貯留した状態であり、胸管からの乳びの漏出が原因であると言われている。乳びとは腸管由来の脂肪を豊富に含有したリンパ液であり、乳び胸の原因となる基礎疾患が特定されない場合には特発性(idiopathic)乳び胸に分類される。
特発性乳び胸の好発犬種として、アフガンハウンド、ボルゾイ、柴犬などが挙げられ、猫ではシャムやヒマラヤンに多いとされている。犬と猫での発生率の差や性差はないと言われている。臨床症状は呼吸困難や食欲不振、運動不耐性などが主に認められ、死に至る場合もある。しかしながら、特発性乳び胸に対する決定的な治療法は確立されていないのが現状である。そこで今回、特発性乳び胸の猫において外科的手術を行った症例を得たので発表する。

症例および診断

 アメリカン・カール、避妊雌、5歳齢、体重8.0kg、BCS5、体温39.1℃
呼吸困難を主訴に当院を受診し、胸部レントゲン検査及び胸部超音波検査にて、胸水の貯留が認められた。胸水性状検査では、肉眼的に乳白色であり、比重1.026、総蛋白5.2g/dl、細胞成分は多数の小型リンパ球が主体の非化膿性滲出液であった。また、胸水中のトリグリセリド値、コレステロール値はそれぞれ893mg/dl、95mg/dlであり、血中濃度(375mg/dl、140mg/dl)と比較して、非常に高いトリグリセリド値であったことから、乳び胸水と診断し、諸検査から原因となる基礎疾患は認められなかったため、特発性乳び胸と診断した。
特発性乳び胸 診断

治療

 内科療法として、低脂肪食による食餌管理、ルチン、プレドニゾロンの内服および胸水抜去を実施(90~130mlの胸水を1日1回から2日1回の頻度)したが、胸水の貯留程度や臨床症状に大きな改善が認められず、胸腔穿刺による気胸も発生したため、第21病日に外科手術を実施。リンパ管の可視化を目的に、術前4時間前から1時間毎に1ml/kgの食用油を給与した。アプローチは、左側第8肋間開胸とし、腸管膜リンパ節からインドシアニングリーンによるリンパ管染色を行うため、左傍肋骨切開を併用した。胸管結紮および心膜切除を行ったのち、乳び槽切開を実施するために左傍肋切開を正中方向に延長したが、乳び槽を確認することができず中止した。その後、胸腔内にアクティブドレーンを設置し、術後の胸水管理を行った。
術後8日目、胸水貯留はあるものの、入院中のストレスを考慮しドレーンを設置したまま退院。通院に切り替え治療を継続した。内服としてルチンを継続し、ドレーンからの胸水抜去、胸部レントゲン検査および胸部超音波検査によって経過観察を行った。胸水貯留は徐々に減少していき、肉眼的にも乳白色から透明へと改善した。術後43日目にドレーンが抜けてしまったが、その後の胸水貯留はほとんど認められなかった。ドレーン抜去から25日目に一度胸水抜去を行ったが、その後経過良好であり現在に至る。
特発性乳び胸 治療

考察

 特発性乳び胸の外科的治療として胸管結紮、心膜切除および乳び槽切開を組み合わせた術式が効果的であると示唆されている。本症例においては、胸管結紮と心膜切除のみを行ったが、この2つの併用でも80~90%と高い治癒率が期待されている。胸管結紮による胸腔内へのリンパ液の漏出防止、心膜切除による右心系静脈圧の正常化によって胸水の減少に対して十分な効果が得られたと考えられる。また、外科的手術を行った場合にも再発の可能性は考えられる。たとえば、胸管結紮において胸管の分岐のバリエーションが多くすべてを結紮することが困難な場合などが挙げられる。そのため、本症例において低脂肪食やルチンなどの内科療法を併用したことでより効果的な治療を行うことができたと考えられる。
本症例は、乳び胸の発生から3週間以上経過し手術を実施した時点で肺の伸展性悪化や肉眼的な炎症所見が強く認められたため、線維性胸膜炎が進行していたと考えられた。現在結果的には良好なQOLが維持されているが、線維性胸膜炎の悪化が更に進行していた場合には予後不良であったと考えられるため、より早期における外科的介入も検討すべきであったと思われた。
今後、特発性乳び胸における外科手術を確立させるために、手技および治療法の組み合わせ、手術適応のタイミングにおいて更なる検討が必要であると思われた。

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